空港ターミナルは俺達とマスコミの出現でちょっとした騒ぎになっていた




空港の警備員も駆けつけマスコミを下がらせ




その周りではこの騒ぎに驚いて一般の客も足を止めている




それにしても一体どんな奴なんだよ?






ババァからは3時に成田としか聞いていない






よく考えれば便名すら聞いていなかった・・







頭上の案内板を見上げるけど分刻みで到着する




世界中からの便の一体どれなのかさえも分からない







まぁ、時間的にみて・・





アジア圏からの数便だろう






そんな事を考えながら頭上の案内板を眺めていると






上海から到着した便の案内が通関中に変わった










「おっ!もうそろそろじゃなぇーか?」








「そうだね。」







総二郎と類の会話を聞くともなしに聞きながらも視線は真っ直ぐ前へ







到着口と書かれている方へ向けていた・・・







到着口からは次々と人が吐き出されてくる






沢山の荷物をカートに乗せ帰ってきた人





そして到着した人







それぞれが出迎えた人々と笑顔を交わしながら





思い思いの方向へと散って行く








そんな中で・・・







俺は視界に入ってきた人物に釘付けになる







俺の世界から音が消え




その人物だけがピンスポットでライトをうけて浮かび上がっている






笑みを浮かべながらゆっくりとこちらに近づいてくる








後50・・・・30・・・・20・・・・10メートル・・・






後5・・4・・3・・2・・1メートル・・






後5・・4・・3・・2・・1歩・・・









今、俺の目の前まで辿り着いたその人物はあっさりと俺を素通りして






斜め後ろにいた奴に抱きついた・・・








「ただいま!総二郎!!」








その言葉を聞いた瞬間、一気に音が戻ってきた






途端に洪水のように流れ込んできた騒音に思わずクラッと



眩暈に似たものを覚える・・・






声を発しようとするのだけれど



喉の奥に貼り付いてしまったようで出てこない







「お帰り!つくし!」









総二郎は抱きついてきた牧野をしっかりと抱きとめると笑みを浮かべている






そして次は類・・・







「ただいま!類!」





「おかえり」







類に抱きしめられながらの会話







その後はあきらが両手を広げて牧野を迎え入れる・・・







「おかえり、牧野」







「ただいま、美作さん!」







決まりごとのようにあきらまで!!






クソー!




まるで俺の存在を無視するかのようなその光景にイラつく!







「オ、オイ!」






俺の発した言葉に再会を喜んでいた奴等がいっせいにこちらを向いた・・






その視線に少したじろぎながらも次の言葉を発する







「ど、どういう事だよ!?」






俺の問いかけに答えをくれたのは牧野本人





牧野の顔からはすっかり笑顔を消えていて





俺の真正面に立った牧野はスッと右手を差し出した・・







「来月からメープルジャパンの取締役を勤めさせていただくことに
 なりましたケイト・ライズです。よろしくお願いします。道明寺さん。」







反射的に差し出された右手を握ったが




今の俺は完全に思考停止状態で





昔の恋人にまるで初対面のような挨拶をされている事にも





気が付いていなかった・・








「・・あっ・・ああ・・」








唖然としたまま間の抜けた返事を返すと




牧野はすぐに俺と繋がっていた手を離してしまった






「つくし、司はメープルの新しい取締役を迎えに来たらしいぜ!」








「そう、ご苦労様。
 それじゃあ、荷物お願いしますね。」







「そろそろ、行くか?
 車、待たせてあるから。」







「ありがとう。」








そう言うと総二郎は牧野の右側から腰に腕を回し



そして類は左側から肩に腕を回した





真ん中に牧野を挟みこむようにして歩き始めた三人






俺は遠ざかっていく牧野の背中を唖然と見つめながら立ち尽くすだけで・・







「オイ!司!全国放送で間抜けヅラ流されたくなかったら
 顔引き締めろよ!行くぞ!」






というあきらの声で我に返った・・






「あ、ああ・・・」







何とか足を一歩進めようとすると前を行きかけていたあきらが振りかえり







「荷物忘れんなよ!」






・・って・・オイ!



お前ら・・!!








「うるせぇー!おめぇが持ってこい!!」








あきらの背中に怒鳴りつけて俺は群がる報道陣を押しのけ





牧野の背中を追いかけた











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