メープルに呼び出されて三日後





自分の欲しい未来の為に決めた





あの日と同じように7時ジャストに呼びリンが鳴った






案内されたメープルの社長室には三日前と同じメンバーが顔を揃えていた







「決まったかね?」






道明寺のお父様から静かに発せられた言葉






「はい」






「では、さっそくだが君の決断を聞かせてくれないかね」





「はい」





私はバッグから3冊のファイルを取り出し



その中の1冊を目の前のテーブルに置いた





「そうか、残念だよ。
 だが君はどうして楓を選んだのだね?
 よければ今後の参考までに聞かせてもらえないかね」









「はい。
 まず、どちらのお話しも私にはもったいないほどの条件を
 示していただいた事に感謝しております。ありがとうございました」







「では条件面で不服があったわけではないのだね?」







「はい、そうではありません。
 ご存知だと思いますが私は17歳の時に日本を離れました。
 それまでは家族とバイトと学園だけが私の世界の全てでした。
 本当に狭い範囲が私の世界でそれに満足していましたが友人達と出逢って
 それは間違いだという事に気が付きました。
 だからもっと広い世界を見てみたいと思い留学しました。
 あの頃のもっと広い世界を見てみたいと思う気持ちに
 変わりはありませんが、それと同時に私は自分の目を
 無理やり前へ向けようとしていたんだという事にも気が付きました。
 だからもう一度、日本へ戻って一から始めてみようと思ったからです。」







「そうか・・君がメープルを選らんだ理由はよく分かったよ。
 それでは私と椿はそろそろ失礼するよ。
 牧野さん、また会える時を楽しみにしてますよ。」








「ありがとうございました」







「つくしちゃん、頑張ってね。
 今度は日本であいましょうね」







「はい」





椿お姉さんと道明寺のお父様が出て行かれた後、

オフィスに残ったのは私と楓社長だけとなった







「牧野さん、契約を交わす前にあなたからの要望は無いのかしら?」







「あります」







楓社長が私に示した条件は…






契約期間は3年で1年ごとに契約内容を見直し


ノルマをクリア出来ていればボーナス


出来ていなければクビと分かりやすいものだった




ノルマは単純に客室の稼働率を上げればいいというものではない


最近、日本ではここ数年、外資系ホテルが建設ラッシュで


数多くのラグジュアリーホテルが出来ている



そしてそれらを利用する客層も変化してきている






海外旅行が身近なものになり海外のラグジュアリーホテルを利用し



目の肥えた人が多くなり




それに伴い外資系ホテルを好んで利用する人が増え



日本のホテルが苦戦を強いられている



メープルも例外ではなく改革が必要だとされていた





だけど新しい試みというものは時として歴史や伝統という壁に阻まれる事がある





私の仕事はその壁を打ち破りつつもラグジュアリーホテルとしての


格式をも守っていくという矛盾したもの





数字として目に見えるものだけではなくこれから何十年とメープルが




今の地位を維持していく為の改革が私に求められているもの




その重要な役割を彼女は私に任るという






これからの事を考えると身震いするし逃げ出したくもなるけど



私がメープルを選んだのは勤務地が日本だからというだけじゃなくて



きっと私はこの人に認められたかったんだ





かって私を溝鼠と罵ったこの人に認められたかったんだ…









「あなたからの要望は何かしら?」






「まず私は仕事を辞めた時に3ヶ月ほど休暇を取ろうと思っていました。
 ですので勤務開始は年が明けてからでお願いします。
 そして人事権を私にも与えて下さい」





「それだけかしら?」






「いいえ、まだあります。個人的にブレーンを雇いいれる事と最後に一つ、
 秘書に関する事ですが、西田さんを私にください」







さすがに最後だけは楓社長の表情がピクリと動いたけれどそれも一瞬で元に戻り





「いいでしょう。西田には辞令を出しましょう。
 あなたからの条件は以上ですね?」




「はい」





こうして1週間後、弁護士を介して正式に契約を交わし9月、


そろそろ秋の気配を感じ始めたNYを後にした…




NYにだって四季はある




真夏は30℃を超える暑さでクリスマスシーズンには雪も降る




3月には春を告げるフラワーフェスティバルが行われ




秋には緑から黄色へと色を変え始めた木々が先を争うように葉を落とし




セントラルパークに住み着いている動物達が冬仕度を始める




そんな秋の気配が少しづつ近付いて来る頃、私は大西洋を越えた






時間の許す限りいろんな場所へ行ってみようと思った



























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