深く腰を沈めていたシートから体を起こし



目だけで牧野に続きを促す






「そして今週の木曜日には本日のプレゼンの受注内定が
 道明寺に決まりその旨の連絡が入ります。」






「決定は来週のはずだぞ!どういう事だ?」







「はい、それは五代側に伝えられている日程です。
 今週の金曜日、東京市場が閉まったと同時に五代本社に
 粉飾決算の容疑で東京地検特捜部の強制捜査が入ります。」








五代に地検の強制捜査だと?!





政治家の汚職や大企業の不正など


社会に及ぼす影響の大きい重大事件を扱う東京地検が動いている・・





粉飾決算で強制捜査が入ると株価は一気に暴落し



証券市場に多大な混乱が生じるため大抵、家宅捜査が入るのは



多少の例外はあるが週末の証券市場が閉まってからと相場が決まっている






粉飾で捜査が入ればほぼ証券取引所から上場が廃止され



自由に株の売買が出来なくなり一般の投資家にとっては



株券が一瞬にして紙切れ同然になってしまう





企業としての信用は地に落ると同時に



投資家から資金が集まらない






強制捜査が入れば五代はどうなる?




経営者が逮捕され関与が認められれば

他の重役も逮捕起訴され裁判を受ける身となる





五代グループはワンマン経営で金に飽かせて雪だるま式に合併を繰り返し




グループ傘下の企業の中には不本意ながら五代に組み込まれてしまっている



企業も少なくない・・





一気に五代離れが進みグループが崩壊する可能性が高い








「その情報間違いねぇーんだろうな?」




「はい、間違いありません。」



「詳しく説明しろ。」



「はい。」














きっかけは桜子だった




1年程前、桜子に五代の次男・雄介との縁談が持ち上がった




当時、雄介の年齢は28歳




五代には二人の息子がいる




長男の聡介は32歳




この二人・・血の繋がった兄弟だけど




見た目も性格も才能も全てが正反対







兄の聡介は成績優秀、イギリスへの留学経験があり語学も堪能




スポーツでもテニスで国体に出場したほどの腕前で外見は母親似だけど



商才は父親譲りの豪腕を発揮している




妻帯者で三年前に結婚した妻は室田代議士の一人娘






弟の雄介は絵に描いたような二代目ボンボンで



父親に似ているのは外見だけ




裏口から入ったと噂の三流大学を一年留年して卒業し





父親の援助の元に立ち上げた会社を今までで3つ潰している




現在は4つ目の会社を立ち上げ





主に東南アジアから果物などを


五代グループ傘下のレストランやスーパーなどに


卸す輸入会社を経営している事になってはいるが・・




商才の無い雄介は全くのお飾りで実質の経営は父親が送り込んだ




滝野という男が実権を握っている




雄介本人は会社の実権を誰が握っていようと興味は無いようで



有り余る父親の財力で群がってくる女に片っ端から手をつけ




遊び歩いているどうしょうも無いバカ男だ






よく叩けば埃が出る身体なんて言うけど



叩くまでもなく悪い噂しか聞こえてこない






そんなバカ男との縁談が桜子に湧き上がり会わずに断る事が出来ず




メープルで見合いの席が設けられた






五代にとって必要だったのは三条という家柄で





桜子にとっても五代の財力と次男である雄介が婿養子に入るという条件は




魅力的に映ると考えたいたのだろうが・・・





それは大きな間違いだ






今現在、桜子の肉親は祖父母だけだが


三条家が財政的に困窮しているという事実は無い



むしろその逆で資産はきちんと管理され運用されている




三条家にとって雄介との縁談は迷惑以外の何ものでもない





断るつもりで出かけたお見合いの席で雄介は二人っきりになった途端、




桜子の目の前に札束を積み上げ


スウィートルームを取ってあるからとキーを見せたらしい




札束にもスウィートにもましてや目の前のふざけた男にも



全く興味の無い桜子はなんとか上手くかわし



その場から帰ってきたけど雄介の方は桜子を気に入ったようで



正式に断った後もしつこく誘いの連絡をしてきていた







私はずっと桜子からその話しを聞いていた





そんなある日、総二郎に招待されて出席した西門流のお茶会で



五代聡介の妻、五代綾香に会った





彼女は元々、西門流のお弟子さんで



結婚前にはよくお茶会に出席していたらしいが




結婚後は年に数回、大きなお茶会にだけ出席するようになったらしい





その時見た彼女は全く幸せそうじゃなかった・・





父親は大物代議士で夫は五代グループの次期社長




何より家柄や肩書きが全面に押し出される世界で




これだけのバックボーンを抱えている彼女なのに





物静かで控えめで常に人の影に隠れるようにしていた彼女に興味が湧いた





本当は桜子から聞いていた五代という名前に興味があったのかもしれないが・・





とにかくこの時の私は五代綾香という女性が気になった












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