「オ、オイ!あれなんだ?!」






すっかり犬に夢中の妻に振り返り声を掛けると





俺には目もくれないで返ってきた妻の言葉は








「あっ!その子、ピーちゃんって言うの!」







ピーちゃんだと?!




チャッピーの次はピーちゃんかよ・・








「名前なんて聞いてねぇーんだよ!
 なんで鳥がいるのか聞いてんだよ!」







「その子ねネットで調べたんだけどコンゴウインコって種類みたいなの!
 でもね凄いんだよこの子、自分で名前言ったの!」










俺が知りたいのは種類でも名前でもねぇーんだよ!









「だから!そんな事聞いてねぇーんだよ!
 なんでそのインコがここにいるのか教えろっつってんだろ!?」









「あっ!そっか・・その子ね、窓を開けてお掃除してたら飛び込んで来て、
 ここが気に入ったみたいで出て行かないの。」












なんだよそれ・・・






唖然としながらもすんげぇ原色ボディーのインコを眺めている俺を





妻は納得したと勘違いしてどんどん話しを自分勝手な方向へ進めて行く・・







「この子ね凄いんだよ!言葉話せるの!」







知らねぇーよ・・そんな事!






妻は犬を抱いたままソファーの背凭れに止まっているインコに近付くと






"ピーちゃん!自分の名前言ってみて〜""





なんて話しかけてやがる・・






妻に話しかけられたインコは確かに返事をするように鳴いたけど・・





俺にはカラスの鳴き声と区別つかねぇーぞ!






「ねっ!?今、ピーちゃんって言ったでしょ?!
 凄いよね〜インコって!」






100歩譲ってもしピーちゃんと聞こえたとしても




ピーちゃんって思いっ切り日本語じゃねぇーかよ!




ここはNYだぞ!











「NYで日本語話すインコっておかしいだろ?!」







当然の疑問を口にしただけなのに妻の答えは・・







「そうだね・・じゃあこの子の飼い主さんは日本人だったのかな?」





なんでそうなるんだよ・・




ハァ〜頭痛ぇ〜






「この子ね、暖かい地域に住んでる種類らしいから
 NYで野良インコじゃないと思うのよね・・
 だから誰かのペットだと思うから飼い主さん探してあげないとね!」








野良インコって・・






どんなインコだよ?




突っ込みたいところは多々あるけど俺の答えは一つだ!








「そんなもん窓開けとけば勝手に出て行くだろ!
 余計な事すんな!」












「ヒドっ・・」





「酷くねぇーよ!犬がいるんだからもう十分だろ?!
 これ以上、生き物増やすな!それにもしそのインコが誰かのペットだったとして
 飼い主が見つかった時に情が移って辛い思いするのはお前なんだぞ!」





「・・そんな事・・分かってるわよ!・・けど・・」






「けどじゃねぇーんだよ!」






いつもなら折れるのは俺のほうだけど



強固な態度の俺に今回は妻の方が妥協案を出してきた





「じゃあ、今晩一晩だけ窓開けとくから
 それでこの子が出て行ったら諦める。
 だから無理やり追い出すような事はしないで。」






最後には"それでいいでしょ?"って・・




勝手に決めてんじゃねぇーよ!







今の妻の言葉は売り言葉に買い言葉のような気もするが






一晩、窓を開けておけば流石に




このド派手なインコも出て行く可能性大だろ?





いや・・100%出て行くだろ?








「ズルはすんなよ!ちゃんと窓全開にしとけよ!」





「分かってるわよ!」








とにかく今晩だけの辛抱だな






妻はさっそく犬にチャッピーと名付けミルクをやり世話をしている






そして俺の座るソファーの背凭れには





まるでず〜っと前からここに居るような






デカイ態度でインコが妻が用意したクルミやブドウを食べている







いよいよ動物園じゃねぇーかよ!










信じらんねぇ・・





なんで窓全開なのに出て行かねぇーんだ?






お前の身体を纏ってるそのド派手な羽はお飾りか?




その羽は自由に空を羽ばたくためのもんだろ?





有効利用しろよな!








一晩中、窓が開いていたにもかかわらず出て行かなかったインコに



勝ち誇ったような表情の妻







「約束だからね。ピーちゃんここに居てもいいでしょ?」







「好きにしろ!」







そんな会話を交わして出社した俺






妻はその日からインコの飼い主を探して再びチラシを配っている







鴨にヤギに犬にインコに俺







優先順位をつけるとしたらきっと俺がダントツで最下位だと思う






そんな現実に凹むけど






その有り余る愛情を訳隔てなく注ぎ幸せそうな妻を見ているのは楽しい











最近の妻のお気に入りは犬にお座りを覚えさせる事と


インコに言葉を覚えさせる事・・




俺には全く聞こえねぇーけど・・





実際、3週間ほどで妻の執念なのかインコの習性なのか





それとも俺が慣らされたのか・・?






少しずつ言葉を覚えたインコは一日中うるせぇーぐらいにしゃべっている・・・






鴨にヤギは相変わらず元気で新しい住人が増えようと



背中に止まられようと全く気にせずマイペースだ





それにしてもこのド派手なインコは人や他の動物を怖がる様子は全く見せない







俺の仕事も一段落ついて来週にはいよいよ業務提携の調印式が行われ




同時に記者会見も開かれその夜にはパーティーも催される予定になっている








土曜日の今日、そのパーティー用のドレスを選びに某ブランドショップまで





全くドレスに関心を示さず今ある物でいいとパーティーの度にふざけた事を言う妻を





無理やり引っ張ってきたが・・・





妻がドレスを試着中、最近では何処に行くのも一緒のチャッピーが






何故か俺の膝の上で背を向け座り背中を撫でろと要求してくる






背中を撫でている俺の手が止まると少し振り向き抗議の目を向けてきやがる






面倒くせぇー奴だ・・










散々あ〜でもないこうでもないと試着を繰り返す事、数十着




やっと妻が選らんだのは深紅のドレス





そして妻は自分のドレスとお揃いで犬用のドレスもオーダーしている





どうやら犬もそのパーティーに連れて行くつもりらしいのだが・・






「オイ!プライベートなパーティーじゃねぇーんだぞ!
 犬は置いていけよ!」









「分かってるよ。パーティーには出席しないけど
 パーティーの前にキース夫人がチャッピーを連れて来てくださるから
 うちのチャッピーとキース夫人のチャッピーのお見合いする事になってるの。
 このドレスはそのお見合い用なの。」








チャッピーとチャッピーの見合い・・?






そんな事、一言も聞いてねぇーぞ!







「どういう事だよ!?」







「先週、奥様にお茶に誘っていただいたでしょ?」







「ああ。」








犬の一件から妻はキース夫人に気に入られ仲良くしてもらっている










「その時にね、私も犬を飼い始めたってお話ししたら
 ジャッキーにも会わせたいって言ってくださったのね。
 それじゃあって事でお見合いをする事になったの!」








「見合いはいいけどよ・・こいつまだ生後4ヶ月だぞ?」









「犬って成長早いんだよ!
 早いうちにお婿さん探しておいてあげないと!
 その点、ジャッキーは性格もルックスもバッチリのイケメンだし!
 チャッピーにぴったりだと思うの!」









成長が早いのは知ってるけどよ・・




犬のイケメンってなんだよ?





自信満々にピッタリだって言ってるけど




俺には全く基準が分かんねぇーぞ!




俺は自分の膝に乗ったままの犬を抱き上げ








「オイ!お前、見合いさせられるみたいだぞ!」







と話しかけると妻は慌てたように俺から犬を奪うと








「そんな肩苦しく考えなくていいんだよ。
 取りあえず会ってみて合いそうだったら
 まずはお友達から始めればいいんだからね!」








と言い終えると俺に向かって





"デリケートな問題なんだからこの子のプレッシャーになるような言い方しないでよね!"





と怒ってやがる・・・







デリケートな問題って何がだ?





見合いがか・・?





プレッシャーって・・






そんなもん感じるわけねぇーだろ!




ハァ〜





マジで頭痛ぇぞ・・








やっとドレス選びから解放され帰宅途中の車内で俺の携帯が鳴った




着信相手は秘書



用件はインコの事だった・・







「どうしたの?仕事?」






「いや、違う。インコの事だ。」





「ピーちゃん?」







「ああ、セントラルパーク内の動物園の飼育員から連絡があって、
 動物園から逃げ出したインコじゃないかって言ってきたらしい。」








「えっ!?ピーちゃんって動物園のインコだったの?」








「まだ分かんねぇーけど羽の色は似てるらしいぞ。」






「そっか・・じゃあピーちゃん連れて動物園に行くの?」







「いや、飼育員が確認に来たいって言ってるらしいけど・・どうする?」







「どうするこもうするも・・動物園っていうのは意外だったけど・・
 飼育員さんも心配してるだろうしちゃんと返してあげないとね・・」








「じゃあ、部屋に来るように言うぞ?」







「うん。」








部屋に戻って1時間ほどで秘書に伴われ現れたのは若い女性の飼育員で





ゲージの掃除中に不注意でインコが逃げ出してしまいずっと探していたらしい







このインコの名前はサンディー






今度はピーちゃんと似ても似つかない名前だった・・








再びあっけない別れだったが妻は意外にも元気だった




その理由がこのインコが部屋から目と鼻の先のパーク内にある




動物園で飼われていたインコだったからこいつに会いたくなったら




すぐに行けるかららしい・・





その後、妻の元には動物園からインコを保護していた感謝の意味を込めて




動物園へのフリーパスが送られてきた




入場料は大人で6ドル




パーク内にあるので規模は大きくないがNYで最古・・




いやアメリカ国内でも最古の部類に入る歴史ある動物園で





ライオンやキリンなど派手な動物は居ないが




アシカやサル、白熊にレッサーパンダなどがいる



れっきとした動物園らしい






妻はフリーパスを貰ってから三日とあけずに通っているようだが




俺は行った事はない・・






ド派手なインコが居なくなりやっと正常(?)に戻った我が家





間違っても俺は妻にインコをプレゼントしたりしねぇーぞ!







パーティーとメインの犬の見合いも無事に終了し




妻は現在、犬の躾教室に通っている





けどよ・・お手だのお座りだの犬だからこそだろ?




ヤギはしねぇーって・・





あっ!それからもう一つ言っとくぞ!




同じ鳥でも鴨はしゃべんねぇーからな!












       ←BACK/NEXT→










inserted by FC2 system