鴨とアヒルの報われない恋に溜息を付きつつ






屋敷から戻ったその夜、







夕食を終えリビングで新聞を読んでいると








キッチンで片付けをしていたはずの妻が









何やらガサゴソと探し物を始めた









独り言をブツブツと呟きながら








ソファーの横に置かれている








籐製のカゴの中の物を引っ掻き回している妻










「司、ちょっとどいて!」








ソファーに座る俺を無理やり追いやると








クッションの後ろやソファーの下やらを覗き込んでいる










「何探してんだ?」












「チャッピーのおもちゃなんだけど・・司、見なかった?」









「見てねぇーけど・・どんな形してんだ?」










「ゴムで出来た黄色いアヒルなんだけどね・・
 お尻の所が音が鳴るやつで名前が牧野って言うの!
 チャッピーのお気に入りなのよね・・
 さっきまで咥えてたのに・・何処に置いて来たんだろう?」










またアヒルで・・







おもちゃにまで名前が付いてんのかよ・・







牧野って・・








もういちいち突っ込まねぇーけど・・







お前のネーミングセンスはどっかズレてんぞ!









「それ、今必要なのか?」








「うん、チャッピーが探してるのよ。
 この子、あのおもちゃが無いと眠れないのよね・・」









チャッピーが探してる?






探してるか?







あいつ、今、スリッパを分解する事に夢中だぞ?!







"ないなぁ〜何処に行ったんだろう・・?"







独り言を言いながら部屋中を探し回っている妻を横目に






俺は煙草を吸うためにベランダへと出た








妻のお気に入りのベランダには






鴨達の小屋とヤギの小屋が置いてあって






その他にも鉢植えの花が数多く置かれている













5月のNY 昼間は過ごしやすい気温だけど





夜になると海が近いせいもあってか







高層アパートのベランダに吹く風は流石にまだ肌寒い






風に背を向け煙草に火を付けると






ゆっくりと大きく息を吐き出す







ガラス戸の向こう・・









室内では妻がまだおもちゃのアヒルを探し回っているのが見える









ベランダに置かれているデッキチェアに腰を下ろし







おちこち動き回っている妻を視線だけで追いかけていると








俺の視界の端を横切った黄色い物体・・













ん?








視線を下へ下げるとヒョコヒョコと左右に身体を揺らし






口に黄色いアヒルを咥えた鴨が俺の目の前を通り過ぎ






小屋へと入って行った・・





鴨を追いかけ小屋を覗き込むと






咥えていたアヒルを寝床の上に大切そうに置くと






おもちゃのアヒルに寄り添うように座り眠り始めた・・








大事そうに羽でアヒルを包み込む鴨








どいつもこいつも・・・








あっちこっちで報われない恋に身を焦がす鴨達・・









おもちゃの黄色いアヒルに恋しているのが








類鴨だったと俺が知るのはこの数日後の事・・

















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