俺の決心も知らずに牧野はまだガキにメシを喰わせている

その様子を横目に見ながら相手にされない不満を全身で表すかのように
ゴロンとその場に横になった

文句の一つでも言われるのかと思ったが意外にも牧野は
俺が寝っころがったのを目で追っただけで何も言わなかった

そんなあいつを軽く睨み付けているとドアをノックする音が聞こえた

「道明寺、手が放せないから出て。」

「誰か来る予定になってたんかよ?」

「う〜ん、多分、優紀だと思う。
 さっき電話したから。」

俺にはたった1行のメールであのダチには電話したってか?

オイ!いい加減にしとかねぇーと温厚な俺様だって暴れっぞ!

けど・・このバカ女!
ガキに夢中で顔も上げやーしねぇー・・

しぶしぶ立ち上がりドアを開けて目の前に居た奴らに
本日、三度目のフリーズ・・


「よお!司!お前もいたのか?」

ドアノブを持ったまま立ちつくしている俺の横からゾロゾロと
能天気な顔で部屋に入ってくる奴ら・・

総二郎にあきら、類までいやがる!

「ヤッホ〜!つくし〜、赤ちゃん見に来たよ〜!」

その後ろから滋に桜子、一番後ろには牧野のダチ・・

あっという間に玄関は靴で一杯に・・・

「オ、オイ!お前ら!」

あがり込んできたあいつらの背中に怒鳴りつけるけど・・
誰一人として振り向きもしねぇー
それどころか牧野を取り囲むように座ると
ガキを覗き込んで口々に何か言ってやがる・・


狭い部屋は座る場所もねぇ・・

追い出してやる!

怒鳴り声を上げようとした瞬間後ろから声がした

「道明寺さん、ごめんなさい・・」

振り向くと牧野のダチが申し訳なさそうに立っていた

「・・あ、ああ・・」

「つくしから電話が掛かってきた後すぐに西門さんから電話があって
 つい話しちゃったんです・・そしたらあっという間にみなさん集まっちゃって・・」

「・・あ、いや・・」

俺はどうもこの牧野のダチが苦手だ・・
滋みたいになんでも勢いだけで突っ込んできたりしねぇーし
桜子みたいにバシッと一言で切り込んでもこねぇーし
牧野みたいにいちいち俺に逆らったりもしねぇー
女達の中でもいつも一歩下がって・・というか
まぁ〜あの三人と一緒じゃあ余程の個性を発揮しねぇーと目立たねぇーけど・・
でも冷静な目で状況分析が出来ていて仲間達の間ではいつも遠慮気味だが
言うべきことはきちんと言っている
何より牧野と同じ他人を思いやるという心をちゃんと持っている
そして牧野と俺の幸せを願ってくれていて自分は総二郎と微妙な関係らしい・・


俺の邪魔をする奴は誰だって許さねぇーけど
このダチはしかたねぇーな・・

だけどオメーらは許さねぇ!!

振り返り思い切っきり不機嫌な念を送るけど・・
全員の視線は牧野の膝の上のガキに注がれていて・・
オイ!お前ら!俺のこと忘れてるだろ?!


「オイ!お前ら、なんの用だよ!?
 用がねぇーんならさっさと帰れ!!」


俺の怒鳴り声も類のいつもと変わらない声で返される

「司、機嫌悪いね?」

オイ!類!喧嘩売ってんのか?
それにお前!どこ座ってんだよ!!

「類、俺のベッドに座わんな!!
 降りろ!!」

類をベッドから無理やりひきずり降ろすと牧野が・・

「ちょっと!ここは私の部屋でしょ?
 なんであんたのベッドなのよ!」

「うるせぇー!お前はいちいち俺に逆らうな!」


「まぁまぁ司、そう熱くなんなって。」

あきら!まぁまぁ・・って、なんだよ?!
そんな簡単な言葉でこの場が丸く治まるとでも思ってんのか?

俺は治まんねぇーぞ!!

「用がないんならさっさと帰れって言ってんだろーが!!」

「用?用ならあるよ〜ん、司〜」

俺の怒りに油を注ぐ滋の能天気な答え・・・

「つくしが赤ちゃん拾ったって聞いたから見に来たんだ〜」

ハァ〜〜

滋が言い終えた瞬間、部屋中からため息が・・・

「えっ?!違うの?つくし」

んなわけねぇーだろ!
どう間違えればそうなるんだよ!!

「ち、違うよ、滋さん。
 この子は拾ったんじゃなくて預かっただけだよ。」


「な〜んだ、つまんないの!」


ハァ〜
なんか・・体中から力が抜ける・・・
もう、勘弁してくれ・・


「司、お前もそんなとこに突っ立ってねぇーで座れよ。」

座れだ?!
足の踏み場もねぇこの狭い部屋でどこに座る場所があんだよ?

・・・っと・・あるじゃねぇーか・・俺のベッド!

ベッドの上にあぐらをかくとすぐに

「ちょっと道明寺!あたしのベッドに座らないでよ!」

「俺のだ!」

「あたしのよ!あんたのじゃナイ!」

俺と牧野くだらない言い合いに割ってはいったのは総二郎

手をパンパンと叩きながら

「ハイ!ハイ!そこまで!」


何がそこまでだよ!
元はと言えばオメェーだろうーが!!
なんでこいつらまで連れてくんだよ!

「うるせぇー!とっとと帰れ!
 帰らねぇーと暴れっぞ!!」


「なんつー脅しだ?ソレ・・
 お前、成長しねぇーな?」

あきらが呆れたような声を出し手を軽く額に当てて大げさに天井を仰いでやがる


「んだとー!?」

青筋を立てたまま勢いよくベッドから降りるとあきらは慌てて腰を浮かした


「わ、分かったから、ちょっと落ち着けよ!」
「オイ!そろそろ行くぞ!」


そう言って他の奴らを促して出口の方へ・・・

滋だけはまだ名残惜しげだったが、あきらが滋の腕を持ち立ち上がらせ
そのまま玄関へと引っ張って行った


ハァ〜やっと静かんなった・・

ところであいつら本当に何しに来たんだ?

マジで赤ん坊見に来ただけか・・?


奴等を追い出しドアを閉め振り返ると牧野と目が合った・・

あいつの目は明らかに”何であんたは残ってんのよ?!”って言ってやがる!

フン!帰えんねぇーぞ!
お前は知らねぇーだろうけど俺は帰えんねぇーって決めたんだよ!!


「お前、これからどうすんだよ?」

「う〜ん、こうちゃんはそろそろお昼寝の時間だから・・
 こうちゃんがお昼寝してる間に洗濯して、優紀が夕飯の材料買ってきて
 くれたから晩御飯の準備して・・後は・・こうちゃんとお風呂に入って
 寝る・・ぐらいかなぁ〜」


なぁ、牧野・・お前の頭ん中のほ〜んの隅っこにでも俺はいねぇーのか?
何から何までぜ〜んぶガキを中心に置きやがって!

とにかくここに居る限りガキが中心でお前と二人での〜んびりなんて出来ねぇーんだな?

分かったよ!
俺にだって考えがあるからな!

携帯を取り出し車を呼ぶ

オイ!ガキ!いつまでもお前の思い通りにはさせねぇーかんな!!


ガキのおむつを替えているあいつを横目で見ながら俺は無言のままで窓を閉め
投げ出したままだった上着に手をかけあいつのバッグを持った

「オイ!行くぞ!」

「ど、どこへ・・?」

「俺んちだよ!」

「ど、どうして?あたし行かないよ。
 帰りたいんだったらあんた一人で帰ってよ!」


ハァ〜こいつ・・マジで分かってねぇ〜

だけどこいつの反応は予想済み
俺んちに行くって言ったってぜってぇー素直にガキ連れてついてくるわけねぇから
俺にはちゃんとこいつを丸めこむ・・いや、納得させる手を考えてある

「バカか?お前、本当に一人でそのガキの面倒見れると思ってんのか?」

「思ってるわよ!何よ!あんたはあたしじゃ無理だって言いたいわけ?
 それに預かってんだから無責任なこと出来ないわよ!!」

「だからバカだって言ってんだよ!
 誰もお前に無理だって言ってねぇーだろ。
 だけどもしそのガキになんかあったらどうすんだよ?」


「何かって、何があんのよ?」

「そ、それは・・例えば急に熱が出たりとかしたらどうすんだよ?!」
「お前、一人で対処できんのか?」

どうだ?
我ながらいい切り返しだろ?
おっ?!
ちょっと考えだしたな!その顔は・・

「そ、それは・・」

「だろ?だから俺んちに行くんだよ!
 俺んちならタマがいるだろ。タマは子育てのプロだ。
 それに屋敷には他にもメイドだっているんだから、何かあったらすぐに対処できんだろ?」

完璧!
俺様ってやっぱ天才だよな?
完全にぐーの音もでねぇ牧野は俺とガキの顔を交互に見比べてやがる
もう一押しだな

「どーすんだよ?」

「・・・わ、わかった・・だ、だけど条件がある。」

「なんだよ?」

「こうちゃんの世話はあたしがするから。
 タマさんに預けっぱなしなんて無責任なこと出来ないから。」

「分かってるよ!
 ホラ!さっさと行くぞ!」

ガキを抱いた牧野の背中を軽く押してちょうど滑り込んできたリムジンに乗せた

車に乗せちまえばこっちのモンだ!!

屋敷に着いたらこのガキをタマに任せて俺はこいつと・・・

ガキやらあいつらのせいでだいぶ予定は狂っちまったけど・・

時間はまだまだたっぷりある

あ〜んなこともこ〜んなことも・・・

3週間ぶりの牧野をゆっくりと堪能させてもらうからな!



覚悟しとけよ!!











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